世界中の人が愛して止まない観光大国フランス・パリ。エッフェル塔やベルサイユ宮殿はもちろんのこと、オープンカフェでお茶をするフランスの紳士淑女も名物の一つです。フランスに行ったことがなくても、映画などでよく見かけるクラシックなパリの街並みは、多くの人の憧れですよね。
そんなパリの名所の一つに「サン・マルタン運河」という運河があります。サン・マルタン運河では10年〜15年に一度、川の水を抜いた大掛かりな大掃除が行われてるのですが、その大掃除がちょっとした名物なのです。そこで今回はサン・マルタン運河の掃除がどのように行われるのか、運河の底からはどんなものが発見されたのか、大掃除の様子をご紹介します。
大人気フランス映画「アメリ」の舞台となった運河
サン・マルタン運河(フランス語でカナル・サン・マルタンCanal Saint-Martin)は、フランス・パリにある全長4.55キロメートルにもなる運河です。古くからパリの人々の憩いの場としても知られています。はるか昔は住民たちの飲料水を引いていたようですが、現在では人気映画「アメリ」の撮影場所としてしられた観光名所となりました。天気の良い日は地元の人たちが川沿いに集まってピクニックをしたり読書をしたりする姿を見ることができます。
サン・マルタン運河には埋められそうになった過去も
実はサン・マルタン運河は1970年代に、四車線の都市高速道路を建設するため埋め立てられることが決まっていました。しかしこの計画は途中で頓挫し、サン・マルタン運河は現在までパリのシンボルとして残されることになったのです。現在では運河周辺はきれいに整備され、人々が集まる憩いの場となりました。そしてその整備の一つに、今回ご紹介する10年〜15年に一度の排水清掃があります。
サン・マルタン運河の役割とは?
サン・マルタン運河が建設されたのは1825年。パリ市民に飲料水を供給するためにナポレオン・ボナパルトが建設を命じ、1806年に工事が始まりました。セーヌ川と交わるバスティーユ広場近くのアルスナル港から、ラ・ヴィレット貯水池をつなぐサン・マルタン運河が完成たのは1825年のことです。完成当時は飲み水を確保するという役割がありましたが、現在はその役割を終え、代わりにカフェやがラリーが立ち並ぶ人気スポットとなりました。
バスティーユ広場側から2kmほどは地下水路となっていますが、それより北側は地上水路となっており、周辺の景観も整えられています。映画・絵画・小説などにも頻繁に登場していますので、ご存知の方も多いでしょう。
サン・マルタン運河の大掃除とは?
サン・マルタン運河の大掃除とは、10年〜15年に一度、3ヶ月ほどの時間をかけて行われる掃除のことです。この大掃除では、運河の泥や土砂を取り除き、水門を修繕します。ベテランの作業員たちによって排水作業が行われ、川底ほどさらっていく作業は、地元の人や観光客の間では、ちょっとした名物です。サン・マルタン運河の底というのはなかなか見られるものではありませんので、みんな興味津々。そして何よりも人々が注目するのは、この大掃除で発見される、サン・マルタン運河に埋まった「お宝」なのです。
最初の作業は「排水」
サン・マルタン運河掃除の最初の作業は、川の水を抜くことです。まず周辺への影響を防ぐために、クレーン車を使ってコンクリートで作られた堰(せき)で川を閉鎖します。次に地下水路を使って少しずつ水を抜いていくのですが、この作業は時間とコストがかかる大変な作業。しかし、環境保護と景観保護のために欠かすことはできません。水がだいたい抜けてきたら、次の工程へと移ります。
運河の魚たちを「引っ越し」させる
水が抜け切れる前に行う大切な作業が「魚たちの引っ越し」です。サン・マルタン運河に住む数多くの生き物を移動させるのは、作業員たちにとっても繊細で大切な作業。かなりの数生息している生き物たちを手作業で一匹ずつすくっていかなければいけないからです。作業員は横位置れるに並んで、少しずつ魚を追い詰めていき、効率的に網で捕まえていきます。作業員の中には予想外の大きな魚を捕まえる者もいるのです。
全てはサン・マルタン運河の生き物を守るため
生き物を捕獲する作業には、かなりの人数が参加しています。この作業は、完全防備で水中を歩き回る、根気と体力のいる仕事です。それでも生物の命を守るためには、欠かせない大切な作業と言えるでしょう。捕まえられた生物たちは作業員の手によって、大きさ・種類ごとに仕分けされ、ボランティアたちによって適切な場所に放流されます。
大物の魚を見つけることも!
いくら大勢が参加していると言っても、一匹一匹魚を手作業で捕獲するのは大変な作業です。「機械を使えばよいのでは?」と思うかもしれませんが、機械は魚を傷つける恐れがあるため使えません。そんな中、作業員たちの楽しみであるのが、大物の魚を見つけることです。珍しい種類の魚や、大きな魚を見つけると、作業員たちは大喜び。現場は一気に興奮に包まれます。過去には16キロものコイが見つかったことがあり、作業員が喜びのあまりコイを抱えて町中を走り回ったほどなんだとか。作業を見守っている人々も、そんな姿にカメラを向け、恒例行事を楽しんでいるようです。
サン・マルタン運河の大掃除は世界から注目されている?
サン・マルタン運河の大掃除に注目しているのはパリの人々だけではありません。地元の学校では、サン・マルタン運河の大掃除を観察することが野外活動の一環となっており、生徒たちが作業を観察している姿も見られます。学生だけでなく、カメラマン、ブロガー、インスタグラマーたちが野次馬に混じり、作業を記録したりシェアしたりしています。中には海外からわざわざ訪れる人もいて、川の周りはいつも多くの人で溢れかえっているのです。
サン・マルタン運河にはどんな魚がいるの?
サン・マルタン運河からは大小さまざまな大きさの魚が5トンほど捕獲されます。そのほとんどが淡水魚で、ナマズ・パーチ・コイが多いそうですが、中には錦鯉が見つかることもあるそうですよ。魚たちを適切な場所に引っ越しさせるために、作業員たちはそれぞれの魚を種類ごとに仕分けしなければいけません。清掃作業自体が大変なのはもちろんのこと、作業員たちは魚の匂いや、ヌメヌメした感触、大切な生き物の命を扱うというプレッシャーにも耐えなければならないのです。サン・マルタン運河の大掃除は作業員たちにとって、肉体的にも精神的にもきつい仕事です。
電気棒を使って魚を捕まえることも
いくら作業員が目を凝らしても、泥水の中では魚を見つけることができない場合もあります。さらにサン・マルタン運河に生息する淡水魚は身体の色が地味なことが多く、存在を見つけること自体が大変です。しかし、機械を使うと魚を傷つけてしまう…でも手作業ではなかなか魚を見つけられない…そんな中考えだされたのが「電気棒を使う」という方法。これは、電気棒で川の中に電流を流し、魚をショック状態にして浮き上がらせるという方法です。実はこれは、安全性と効率性の両方を満たした素晴らしい方法と言えます。
続いてはゴミを拾う作業へ
サン・マルタン運河に生息する生物を引っ越しさせる作業が終了すると、今度は川底のゴミを拾う作業へと移ります。実はこのゴミ拾いが、清掃作業で多くの人が最も注目する部分なのです。さて、15年間という長い長い年月の中で、一体どんなゴミがサン・マルタン運河の底に埋まっているのか人々の関心が集まります。もちろんほとんどは、ジュースの缶やお菓子の袋など、取り留めのない「ゴミ」ですが、過去にはとんでもないものが出てきて警察沙汰になったことも。一体、どんな興味深いものが出てきたのでしょうか。
運河から出てくる大量のガラクタとゴミ
サン・マルタン運河から出てくるのは、空き缶・空き瓶・プラスチックなど、ほとんどがガラクタとゴミです。残念なことに、地元の人たちがピクニックをしたりお酒を飲んだ後に、ゴミをそのまま川に捨ててしまうことが多々あります。
ただ、捨てられたゴミの中には「一体どこからやってきたの?」と思うような信じられないゴミも。本来なら家の中でしか見られないようなものなのに…。一体どこから運ばれてきたの?さあ、見つかったものは何だったのでしょうか。
サン・マルタン運河から見つかった信じられないゴミの正体は…
なんとサン・マルタン運河に捨てられていたのはトイレの便器でした。一体、なぜトイレの便器をサン・マルタン運河に投げ捨てなければならなかったのでしょう。たまたま通りすがりの人が便器を持っていて、川に投げ捨ててしまったのでしょうか。いえいえ、そんなことはありません。新品の便器を買ったので、古くなったものを車で持って来て捨てた?もちろんパリでも粗大ゴミの不法投棄は違法ですし、そもそもサン・マルタン運河はゴミ置き場ではありません。
作業員たちにとっても、こんな使用状況の分からない便器を引き上げなければならないなんて、最悪な気分になったことでしょう。
そのフランスパンはそんなに美味しくなかったの?
フランスと言えば「フランスパン」です。パリの紳士淑女が紙袋に入ったフランスパンを抱えて歩く姿は、映画などのシーンでもお馴染みですよね。でも、なぜサン・マルタン運河にフランスパンが?そのフランスパンはよほど美味しくなかったのかもしれません…。美味しくないにしても、パングラタンにしたり、フレンチトーストにしたり、わざわざ川に捨てなくても使い道はたくさんあったはずなのに。フランス人なのに、フランスパンをサン・マルタン運河に捨てるなんて、二度とそんな行為は止めてもらいたいですね!
サン・マルタン運河周辺には何がある?
現在はパリっ子たちの人気スポットとなったサン・マルタン運河周辺。サン・マルタン運河の周りには並木道があり、周りにはカフェやおしゃれなレストランなどが点在しています。サン・マルタン運河界隈にはガイドブックに載っていないお店も多く、地元民に愛される隠れ家的お店も多いです。サン・マルタン運河を自由に歩き回ってみれば、まるでパリっ子の休日のような地元に根付いた時間を過ごせるでしょう。実はサン・マルタン運河周辺は観光客も少ないので、こぢんまりとしたお店で休憩したり、パリの空気をのんびり感じたり、観光地とはまた違った楽しみ方ができます。
捨てられたゴミの中には自転車も
作業員たちがゴミ拾いを続けていると、なんと自転車が出てきました。なぜサン・マルタン運河に自転車を投げ捨てたのか、その理由は分かりません。しかし所有者が分かる限りは、その自転車は持ち主の元へ返されます。ところがサン・マルタン運河に投げ捨てられている自転車の多くは、レンタル自転車で持ち主が分からないものばかりだったのです。おそらくレンタル自転車を借りた人が返却が面倒で川に投げ捨てたのでしょう。
サン・マルタン運河の悲しい現実
サン・マルタン運河の大清掃期間中は、椅子、バイク、布団、缶に瓶など、毎日のように川から廃棄物の数々が拾い出されます。驚くべきものが見つかったときには、ニュースになることもあるんだとか。観光大国フランスでは、景観維持に国をあげて取り組んでおり、違反すると厳しい罰則が課せられます。悲しいことにこの厳しい罰則を逃れるために、不法投棄をしてしまう人がいるのです。
重いゴミは重機で引っ張り上げる
ゴミの中には一体どうやって捨てたのか分からないくらい重いものもあります。その中の一つが「バイク」です。ただでさえ重いバイクは、泥を含んでしまうとかなりの重さになり、人の手で持ち上げることはできません。そのため、クレーン車などの重機を使って岸まで運びます。川に投げ捨てられているようなバイクはほとんどが盗難品のため、持ち主を見つけることはほぼ不可能です。それにしても、一体どういった経緯でバイクを川底に投げ入れたのか気になりますね。
片付けても片付けても減らないゴミ
自転車やバイクなどの大きなゴミを片付けると、少しずつ川底が見え始めます。とは言え、まだまだ空き缶や空き瓶などの小さなゴミが泥と一緒に残っているのです。
地元の若者はよくサン・マルタン運河周辺でピクニックをしています。ピクニックをすることは大いに結構なのですが、飲み物や食べ物の空き容器をゴミ箱に捨てることなく川にそのまま捨ててしまう人も多いのです。そのため、サン・マルタン運河の川底には数多くのゴミが積み上げられています。これらのゴミを片付けるには、かなりの根気と忍耐力が必要だと言えるでしょう。
清掃作業は常に危険と隣り合わせ
3ヶ月も続くこの清掃作業は、作業員にとって非常に危険で、大きなストレスがかかります。生き物の捕獲は非常に繊細な作業が求められ、ゴミ収集の際は危険物で怪我をしないように気をつけなければいけないからです。
以前、サン・マルタン運河清掃で拳銃が見つかった際は、警察も出動するほどの大騒ぎとなりました。その際は幸い怪我人が出ることはなく、警察が迅速に事件を処理しましたが、このようなことを考えると作業員が常に危険と隣り合わせであることがよくお分かりいただけるでしょう。
サン・マルタン運河の作業工程
では、3ヶ月のサン・マルタン運河清掃の工程はどのようなものなのでしょうか?まず最初にするのは、運河を通る船やクルーズ船を停止させることです。続いて運河の水をポンプなどで抜いて、作業ができる状態にします。網や電気棒を使って運河の生き物を捕獲して移動させたら、廃棄物や小さなゴミを徹底的に取り除く作業。運河の泥や土砂を取り除いたら最後に水門を修繕します。最後に水を再び流して作業は終了です。水位が元の位置まで戻ったら、船やクルーズ船の運行が再開し、運河は元の姿に戻ります。
廃棄物の中にはショッピングカートも
運河に廃棄されているのは自転車やバイクだけではありません。なんとショッピンカートも廃棄物として発見されたことがあります。「ショッピングカート?」と思うでしょう。そう、スーパーマーケットなどで使われている、あのショッピングカートです。買い物の荷物が多かったので、そのまま家に持ち帰って、返すのが面倒になって運河に廃棄したのでしょうか?一般的には信じられないような感覚ですが、ショッピングカートは実は清掃の旅に発見されています。ショッピングカートを廃棄する人というのは、かなりいるということですね。
サン・マルタン運河のクルーズ観光
サン・マルタン運河を別の角度から楽しみたい方には、クルーズ観光をおすすめします。パリでは何社もの会社がクルーズ観光を運営しており、コースや日程などを多くの選択肢から選ぶことが可能です。出発はアルスナル港か、ラ・ヴィレット貯水池が一般的で、約4.5キロの距離を一周するコースが定番となっています。
クルーズ観光では、作られた水路の中を通ったり、橋で船の通過を待つ人々を眺めたり、水門で水位調整を体験したりと、運河ならではの体験ができますよ。もちろん、船から見える運河周辺のおしゃれのカフェや美術館、街の人々をオープンデッキから眺めるのも最高の体験です。
レンタルサイクルもおすすめ
パリの街は比較的コンパクトですが、観光スポットが多く、全てのスポットを徒歩で回るのは大変。そこでおすすめなのが、レンタルサイクルを利用することです。代表的なレンタルサイクルには、2007年からパリ市が始めた「 Velib’(ヴェリブ)」というサービスがあります。このサービスは観光客だけでなくパリっ子にも人気です。Velib’(ヴェリブ)はパリ市内に1,700もの拠点を置き、24時間年中無休で利用できます。好きな場所で借りて好きな場所で返せるのでとても便利です。
ゴミの中からマンホールの蓋が見つかったことも!
なんと、サン・マルタン運河の中からマンホールの蓋が見つかったこともありました。見つかったのは、円形で格子型の普通のマンホール。そもそもマンホールの蓋って捨てるものなのでしょうか?誰がなんの目的で外して捨てたのでしょう。外したのは良いけれど、どういった経緯で捨てなければいけなかったのか気になります。こうして意外なものが毎日毎日見つかるとなると、多くの野次馬が運河の周りで清掃作業をじっと見つめたくなる気持ちも分かりますね。
サン・マルタン運河はゴミ置き場ではありません
サン・マルタン運河に廃棄されていたものとしては、空き瓶、空き缶、プラスチックのゴミ、自転車などが多いですが、一方でワイヤーやコンクリートの塊なども捨てられています。中には鉄パイプやカラーコーンなどもありました。おそらく工事関係者が不要になったものを不法に廃棄したのでしょう。一見、素敵な場所に見えるサン・マルタン運河界隈ですが、実はこのように深刻な不法投棄の問題を抱えています。清掃作業で明るみになった事実を踏まえ、今こそ運河の不法投棄問題に向き合うべきなのではないでしょうか。
一人一人の協力でパリの街は美しく生まれ変わる
清掃作業の際、排水後の運河の底を覗いてみると、大きな衝撃を受けます。穏やかな水面や周辺の素敵な景観とは裏腹に、泥にまみれたゴミや廃棄物が姿を表すのです。普段は美しい水面を泳いでいる鳥たちも、清掃の期間は悲しげな表情でゴミを眺めているよう。幸いにも10年〜15年に一度行われる清掃作業のおかげで、運河はきれいに保たれています。しかし、作業員は「パリ市民や観光客は、サン・マルタン運河の底を見て、自分たちが捨てたゴミによって何が起きているのか、真剣に考えてみて欲しい」と語りました。
地元民や観光客に愛されるサン・マルタン運河
サン・マルタン運河では夏になると季節のイベントが行われます。中でも運河に提灯を流すイベントでは、普段とは違う幻想的な景色に出会えるでしょう。サン・マルタン運河はパリ市民にとって、なくてはならない大切な憩いの場所なのです。そんな場所だからこそ、簡単にゴミを捨てて汚してしまうのではなく、美しい運河を保つためにできることを考えて実行して欲しいと作業員たちは願っています。
美しいサン・マルタン運河を保つためにできること
10年〜15年に一度行われるサン・マルタン運河の大清掃。作業を見守る人々にとっては、思いがけないものが見つかるというイベント的な楽しさがあるでしょう。しかし、サン・マルタン運河をきれいに保つために、巨額の費用と人々の努力が費やされていることを決して忘れてはいけません。もし全ての人が今すぐポイ捨てや不法投棄を止めれば、この清掃を行う必要はないのです。
もしいつかパリへ旅行に行く機会があれば、ぜひサン・マルタン運河を訪れてみてください。きっと、ただ観光地として楽しむだけでなく、感慨深い気分で運河の様子を眺めることができるでしょう。